なんてみじめな気晴らしだ
2008年4月11日光文社古典新訳文庫『肉体の悪魔』を読みだす。おおざっぱに30ページ読み、耐えられなくなってきた。大昔、ギャルゲーをやったときに似た、終わりなきハフハフ感。恋愛ものの小説は、僕を勘違いさせる。女の人と話すとき僕もこんなふうに思っていたな、と、無理矢理振り返らせる腕力。本当はそんなこと一切思っていなかったにもかかわらず、僕は、前の彼女への変わらぬ思いで満たされたようになり、こうして記憶を改ざんしつづけるのだ。ああだっけ、こうだっけ。都合をつけながら飲み会のネタにしたてあげる。発表のときは近い。役者の一種だ。
27歳の人と「お茶」をした。職場から行く、なんて言うからてっきりOLか何かのつもりだったが、そうではなく、飲食店のアルバイトだった。資格試験があると言うから行政書士か何かのつもりだったのが、小学校の採用試験だった。勝手な期待のうち、ほとんどすべてが的外れだった。彼女ははじめ僕を、何も考えていない男だとしており、野心を秘めていることにしたのち、バランス感覚に長けた男とした。なんてみじめな気晴らしだ。いつまでヘラヘラしていれば済むんだ。ベッドの上で天上を見上げつづける生活。
『肉体の悪魔』より
自分との類似を見分ける本能だけが、真実の導きの糸になる。だが、粗野な精神の持ち主はいつでも表面的に同じタイプしか見分けられず、そればかり追いかけるので、社会の中では道徳的に無難な人間だと思われる。
お茶をしている間、両隣が女子大生だった。右では合コンの話を、左では法律の話。合コン女は、すごいねー、と言い、法学女は鼻にかけた。挟まれた僕。
実際の両隣には誰もいなかったわけだが、妄想しつつ27歳の彼女と話した。今僕の考えているすべてを話したい。リアクションを受け取りたい。自分を探しに海外へ行った話など、興味がないのだ。言ってしまおう。誰にも興味がない。
なぜこんなところで興味のない話を聞いているのだろう。顔のかわいい割に、彼女はハスキーボイスだ。そのギャップが胸を刺激する。教員試験のために勉強せねばならないが、すると労働時間が減る。今のうちにたくさん稼ぐ予定らしい。僕にもっと甲斐性があれば良かった。
「俺が金出すから、結婚しよう」
男が結婚するタイミングなんて、案外こんなもんかもしれない。
だがしかし、しかしである。今現在の僕は、甲斐性と対極にいる。なんだなんだ妄想野郎が。何も真面目に考えられない。
彼女ができた。27歳の人にうつつ抜かしつつ、である。同じ職場の受付嬢に手を出した。わざとらしく終電を逃し、ラブホテルに泊まった。光る風呂、一晩中裸で抱き合った。角が来る、角が来る、トリップしながら僕の首を絞める彼女。もう死んでいい。結婚しよう。
ラブホテルに泊まった日、そのまま部屋まで彼女を連れて帰り、昼3時、友人と飲む、そういって僕ときたら、こともあろうに、27歳の女性とお茶をしてしまった。世の中が憎い。喫茶店でずっと悶々していたい。向かいの席に座るカップルへ、僕は水をぶっかけることができる。生殺与奪の権が我が手に。彼、彼女らは警戒していない。危機を乗り越えた方が恋愛感情は強くなるらしい。その点で僕は善人だ。
悪いが僕は付き合う、だとか、恋愛、だとかにうつつを抜かしたくない。いちいち面倒だ。スキあらば好きだと言ってくる彼女に対し、そのつど話題を変えたり、笑顔だけで応えるのは、悪魔じみているだろうか。女性と抱き合っても、何も救われないことがわかった。ずっとないものねだりをするのかと思うと吐き気がする。ねだった時点でその対象を思い浮かべている。すなわち対象はどこかに存在する。ただ目の前にない。皆さんは消えたくなりませんか?
算数の問題を解く。過去問を解く。数学の問題を解く。いつのまにか僕は2年目になっていた。一年前には解けなかった問題が解けるようになった。集合と位相、留数解析、聞き慣れない単語の飛び交う講義室から逃げ出し、15時半に出社した。保護者会が近い。人生の墓場へようこそ。
27歳の人と「お茶」をした。職場から行く、なんて言うからてっきりOLか何かのつもりだったが、そうではなく、飲食店のアルバイトだった。資格試験があると言うから行政書士か何かのつもりだったのが、小学校の採用試験だった。勝手な期待のうち、ほとんどすべてが的外れだった。彼女ははじめ僕を、何も考えていない男だとしており、野心を秘めていることにしたのち、バランス感覚に長けた男とした。なんてみじめな気晴らしだ。いつまでヘラヘラしていれば済むんだ。ベッドの上で天上を見上げつづける生活。
『肉体の悪魔』より
自分との類似を見分ける本能だけが、真実の導きの糸になる。だが、粗野な精神の持ち主はいつでも表面的に同じタイプしか見分けられず、そればかり追いかけるので、社会の中では道徳的に無難な人間だと思われる。
お茶をしている間、両隣が女子大生だった。右では合コンの話を、左では法律の話。合コン女は、すごいねー、と言い、法学女は鼻にかけた。挟まれた僕。
実際の両隣には誰もいなかったわけだが、妄想しつつ27歳の彼女と話した。今僕の考えているすべてを話したい。リアクションを受け取りたい。自分を探しに海外へ行った話など、興味がないのだ。言ってしまおう。誰にも興味がない。
なぜこんなところで興味のない話を聞いているのだろう。顔のかわいい割に、彼女はハスキーボイスだ。そのギャップが胸を刺激する。教員試験のために勉強せねばならないが、すると労働時間が減る。今のうちにたくさん稼ぐ予定らしい。僕にもっと甲斐性があれば良かった。
「俺が金出すから、結婚しよう」
男が結婚するタイミングなんて、案外こんなもんかもしれない。
だがしかし、しかしである。今現在の僕は、甲斐性と対極にいる。なんだなんだ妄想野郎が。何も真面目に考えられない。
彼女ができた。27歳の人にうつつ抜かしつつ、である。同じ職場の受付嬢に手を出した。わざとらしく終電を逃し、ラブホテルに泊まった。光る風呂、一晩中裸で抱き合った。角が来る、角が来る、トリップしながら僕の首を絞める彼女。もう死んでいい。結婚しよう。
ラブホテルに泊まった日、そのまま部屋まで彼女を連れて帰り、昼3時、友人と飲む、そういって僕ときたら、こともあろうに、27歳の女性とお茶をしてしまった。世の中が憎い。喫茶店でずっと悶々していたい。向かいの席に座るカップルへ、僕は水をぶっかけることができる。生殺与奪の権が我が手に。彼、彼女らは警戒していない。危機を乗り越えた方が恋愛感情は強くなるらしい。その点で僕は善人だ。
悪いが僕は付き合う、だとか、恋愛、だとかにうつつを抜かしたくない。いちいち面倒だ。スキあらば好きだと言ってくる彼女に対し、そのつど話題を変えたり、笑顔だけで応えるのは、悪魔じみているだろうか。女性と抱き合っても、何も救われないことがわかった。ずっとないものねだりをするのかと思うと吐き気がする。ねだった時点でその対象を思い浮かべている。すなわち対象はどこかに存在する。ただ目の前にない。皆さんは消えたくなりませんか?
算数の問題を解く。過去問を解く。数学の問題を解く。いつのまにか僕は2年目になっていた。一年前には解けなかった問題が解けるようになった。集合と位相、留数解析、聞き慣れない単語の飛び交う講義室から逃げ出し、15時半に出社した。保護者会が近い。人生の墓場へようこそ。
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